脂質異常症とは
私たちの血液中には、「コレステロール(LDL・HDL)」「中性脂肪(トリグリセライド)」「リン脂質」「遊離脂肪酸」といった脂質が含まれています。
脂質異常症とは、これらのうち、特に量が多い「コレステロール」と「中性脂肪」の値が基準値から外れてしまう病気です。
コレステロールや中性脂肪の値が基準値から外れていても、自覚症状が現れることはほとんどありません。
日常生活に支障がないため、健康診断で異常を指摘されても、治療せずに放置してしまうケースも少なくありません。
しかし、脂質異常症は、無症状のうちに動脈硬化を引き起こす危険な病気です。
放置すると、血管内に余分な脂肪が溜まり、血液がドロドロの状態になります。
その結果、血管が狭くなったり、血栓によって血管が詰まったりして、脳や心臓などに深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
最悪の場合、突然死や重い後遺症が残ることもあるため注意が必要です。
脂質異常症には、他の病気や薬が原因で起こるものもありますが、そのほとんどは「原発性脂質異常症」です。
これは、高カロリー・高脂肪食や運動不足といった、毎日の生活習慣が大きく影響しています。
重篤な合併症を防ぐためには、早期に生活習慣を見直し、適切な治療を受けて動脈硬化の進行を抑えることが重要です。
脂質異常症の種類と
診断基準
脂質異常症は、異常値を示す脂質の種類によって、「高LDLコレステロール血症」「低HDLコレステロール血症」「高トリグリセライド血症」の3つに分けられます。
これらのタイプは、患者様一人ひとりに複数当てはまることもあります。
脂質異常症の種類
高LDL
コレステロール
血症
高LDLコレステロール血症は、動脈硬化に深く関係するLDLコレステロールが高いタイプの脂質異常症です。
日本では、このタイプの脂質異常症が最も多く、約20%もの人が高LDLコレステロール血症の可能性があるとされています。
低HDL
コレステロール
血症
低HDLコレステロール血症は、動脈硬化を防ぐ働きを持つHDLコレステロールが低いタイプの脂質異常症です。
HDLコレステロールは、血管内のコレステロールを肝臓に戻す働きがあり、動脈硬化の予防に重要な役割を果たしています。
高トリグリ
セライド血症
高トリグリセライド血症は、中性脂肪とも呼ばれるトリグリセライドが高いタイプの脂質異常症です。
アルコールの飲み過ぎや肥満との関連が深く、脂肪肝を合併しているケースも多いです。
また、トリグリセライド値が高い状態が続くと、急性膵炎のリスクが上昇するため注意が必要です。
脂質異常症の基準
脂質異常症の診断は、通常、空腹時の採血結果に基づいて行われます。
具体的には、中性脂肪(TG)が150mg/dL以上、HDLコレステロールが40mg/dL未満、LDLコレステロールが140ml/dL以上のいずれかに当てはまる場合に、脂質異常症と診断されます。
LDLコレステロールが140ml/dLに満たない場合でも、120~139mg/dLの場合は「境界域」と判定されます。
境界域の場合は、高血圧や糖尿病などの他の要因も考慮し、冠動脈疾患の発症リスクを評価する必要があります。
これらの基準値は、性別、年齢、喫煙の有無、家族歴、慢性腎臓病(CKD)や糖尿病などの合併症の有無などによって異なる場合があります。
ご自身の目標値については、医師にご相談ください。
診断基準
(空腹時血液検査)
中性脂肪(TG) | 150mg/dL以上 | 高トリグリセライド血症 |
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
LDLコレステロール | 140ml/dL以上 120~139mg/dL | 高LDLコレステロール血症 境界域LDLコレステロール血症 |
脂質異常症の原因
脂質異常症の原因は、遺伝、体質、体重増加、食習慣、運動習慣など、さまざまな要因が複雑に関係しています。
また、他の病気や薬の影響も考えられます。
近年、日本人の間で脂質異常症が増加している背景には、食生活の欧米化や運動不足が影響していると考えられています。
動物性脂肪の多い食事はコレステロール値を上昇させ、果物や甘いものの過剰摂取は中性脂肪値を増加させます。
また、喫煙や運動不足は、HDLコレステロールの値を低下させる要因となります。
さらに、遺伝が関係する「家族性高コレステロール血症」も知られています。
家族性高コレステロール血症は、LDLコレステロールが増加し、動脈硬化のリスクを高める病気です。
家族に、男性で55歳未満、女性で65歳未満で心筋梗塞を発症した人がいる場合は、LDLコレステロール値の検査を受けることをおすすめします。
痩せていても
脂質異常症になる
原因
脂質異常症は、普通体型や痩せている人でもLDLコレステロールは高くなります。
遺伝的にLDLコレステロールが高い場合や、動物性脂肪を多く摂取することで起こりやすくなります。
内臓脂肪は、皮下脂肪と比べて、外から目立ちにくい傾向があります。
健康診断などで脂質異常を指摘された方、リスクが高い方は、定期的な検査と、必要に応じた治療を受けましょう。
脂質異常症の症状
脂質異常症は、自覚症状がないまま進行するのが特徴です。
多くの場合、健康診断などで血液検査を受けた際に、コレステロールの異常値を指摘されて初めて気づくケースが多いです。
自覚症状がなくても、放置すると病状は進行し、最終的には重い病気を引き起こす可能性があります。
診断を受けた時には、すでに病状がかなり進行していることも少なくありません。
自覚症状はほとんどありませんが、家族性高コレステロール血症やLDLコレステロール血症の場合、症状が進行すると、まぶたの周りやアキレス腱にコレステロールの塊(黄色腫)が現れることがあります。
通常の脂質異常症では、身体的な変化が現れることは稀ですが、家族性の場合や症状が進行している場合は、身体的な変化にも注意が必要です。
脂質異常症を
放置するとどうなる?
脂質異常症は、自覚症状がほとんどないため、健康診断などで指摘されるまで気づかないケースがほとんどです。
しかし、放置すると動脈硬化を引き起こし、命に関わる危険性もあるため、決して軽視できません。
脂質異常症では、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の増加やHDLコレステロール(善玉コレステロール)の減少により、血液中のコレステロールバランスが乱れます。
その結果、血管内にコレステロールが蓄積し、血管が傷ついたり、狭くなったりします。
LDLコレステロールは血管壁に入り込みやすく、蓄積するとプラークと呼ばれるコブを形成し、血管を狭くします。
これが動脈硬化です。
プラークは、血流を悪化させるだけでなく、破裂すると血栓を作り、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となります。
また、中性脂肪が急激に増加すると、急性膵炎のリスクが高まります。
急性膵炎は、膵臓が消化酵素によって消化され、炎症を起こす病気です。
重症化すると他の臓器にも影響が及ぶ可能性があります。
さらに、急性膵炎を繰り返すと慢性膵炎に移行し、膵臓の機能が低下することで、消化不良や糖尿病のリスクも高まります。
脂質異常症を放置すると、慢性膵炎の重症化にもつながる可能性があるため注意が必要です。
脂質異常症の治療方法
脂質異常症の治療は、まず食事療法と運動療法を組み合わせて行います。
しかし、以下のような場合には、すぐに薬物療法を導入することがあります。
- 既に脂質異常症の診断・治療を受けていた方
- 糖尿病や高血圧を合併している方
- 喫煙習慣のある方
- 遺伝的に動脈硬化が進行しやすい方
運動療法
適度な運動は、中性脂肪値を下げ、HDLコレステロール(善玉コレステロール)値を上げる効果が期待できます。
また、血圧や血糖値の改善にも有効です。
持久力が低下すると、動脈硬化のリスクが高まるといわれています。
運動は、食事療法と組み合わせることで、より効果的に減量することができます。
1日30分程度、週に180分以上を目安に運動を行いましょう。
通勤や買い物など、日常生活の中でこまめに体を動かすことも大切です。
運動の強度は、心拍数110~120/分程度を目安に、「少しきついけれど頑張れる」と感じる程度を心がけましょう。
食事療法
脂質異常症の食事療法では、体重管理、肥満の解消を目的として、カロリー制限を行います。
また、どの脂質が過剰で、どの脂質が不足しているかによって、個別に具体的な食事指導を行います。
コレステロールの摂取量は1日300mg以下を目安にしましょう。
動物性脂肪を控え、魚や植物性脂肪を積極的に摂取しましょう。
過度な飲酒は控え、目安としてはビールなら中瓶1本、日本酒なら180ml、焼酎なら100ml、ワインなら200ml程度です。
コレステロールの吸収を抑える食物繊維を積極的に摂取しましょう。
魚や大豆製品を積極的に摂取しましょう。
清涼飲料水やスナック菓子はできるだけ控えるようにしましょう。
マーガリン、ショートニング、スナック菓子などに含まれるトランス脂肪酸の摂取量にも注意しましょう。
薬物療法
食事療法や運動療法を行っても効果が不十分な場合や、診断時から動脈硬化のリスクが高いと判断された場合には、薬物療法が検討されます。
薬物療法では、コレステロール値を下げる薬や中性脂肪値を下げる薬などが処方されます。