心不全とはどんな病気?
心不全とは、心臓が正常なポンプ機能を果たせなくなった状態を指します。
心臓は、全身に血液を送り出すポンプの役割を担っていますが、心不全によってこの機能が低下すると、脳や肺、肝臓、消化器、腎臓など、様々な臓器に十分な血液が供給されなくなります。
腎臓と連携して体内の水分バランスを調整する役割も担っています。
心不全によりこの調整機能が乱れると、体内に水分が過剰に貯留してしまうことがあります。
腎臓が原因で水分バランスが崩れる場合は腎不全と呼び、心不全とは区別されます。
また、全身への血液循環が滞るため、運動時の息切れや動悸などの症状が現れます。
心不全の原因には、心筋梗塞や心筋症、心筋炎など、心臓の筋肉そのものに異常が生じるケースと心臓弁膜症のように、心臓の弁の機能が低下するケースがあります。
心不全と余命について
心不全は決して予後の良い病気とは言えず、5年生存率は約50%と言われています。
これは、日本人の死亡原因第1位である悪性新生物(がん)のうち、大腸がんとほぼ同等の数値です。
心不全が悪化して入院と治療を繰り返すたびに心臓の機能は低下し、余命は短くなっていく傾向があります。
もちろん、余命は個人差があり、心不全の原因となった病気や、治療薬の効果によっても大きく異なります。
しかし、心不全は「老衰」の一種と捉えられがちであり、その深刻さが十分に理解されていないケースも少なくありません。
心不全の原因
心不全を引き起こす主な原因には、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、弁膜症があります。
その他にも、心筋症、心筋炎、先天性心疾患、不整脈、肺疾患、薬剤などが原因となることもあります。
虚血性心疾患
心不全の3大原因の中で最も多いのは、虚血性心疾患です。
虚血性心疾患の中でも、心不全を引き起こすのは、心筋梗塞と虚血性心筋症です。
心筋梗塞は、心臓の筋肉が壊死してしまう病気です。
梗塞の範囲が広いほど、心臓のポンプ機能が低下し、急激に心不全を引き起こす可能性が高くなります。
虚血性心筋症は、心臓の複数の血管が高度に狭窄し、心臓の筋肉に十分な酸素が供給されなくなることで起こります。
心臓の筋肉は壊死には至りませんが、ポンプ機能を低下させて、いわば「冬眠状態」になります。
これは、心臓が生き延びるために、最小限の活動にとどめている状態と言えるでしょう。
しかし、ポンプ機能が低下している状態であることには変わりないため、心不全を引き起こす可能性があります。
高血圧性心疾患
高血圧性心疾患も、心不全の主要な原因の一つです。
高血圧を放置すると、心臓に大きな負担がかかり続け、心不全のリスクが高まります。
高血圧の状態が続くと、心臓の筋肉は、強い圧力に耐えようと肥大化していきます。
これは、まるで筋トレをして筋肉を鍛えているような状態です。
しかし、心臓の筋肉は、鍛えれば鍛えるほど良いというわけではありません。心臓の筋肉が肥大すると、筋肉が硬くなってしまい、柔軟性を失ってしまいます。
心臓は、拡張と収縮を繰り返すことでポンプ機能を維持していますが、筋肉が硬くなると十分に拡張することができなくなります。
その結果、心臓内の圧力が上昇し、肺に水が溜まりやすくなるなど、心不全の症状が現れやすくなります。
弁膜症
心臓の弁には、血液が逆流しないように、開いたり閉じたりする役割があります。
心臓の弁には4つの便があり、弁膜症はこれらの弁が正常に機能しなくなる病気です。
弁が狭くなる「狭窄」や、弁がしっかり閉じなくなり血液が逆流する「閉鎖不全」などが起こります。
特に、左心室に関わる大動脈弁と僧帽弁の弁膜症は、心不全に移行しやすいため注意が必要です。
大動脈弁閉鎖不全
大動脈弁の閉鎖不全が起こると、心臓が収縮して血液を大動脈に送り出した後、弁がしっかり閉じないため、一部の血液が心臓に戻ってきてしまいます。
心臓に戻ってきた血液と、肺や左心房から新たに送られてくる血液が合わさり、心臓内の血液量が増加します。
すると、心臓はより多くの血液を送り出そうと、その大きさを拡張させようとします。
しかし、心臓の拡張にも限界があります。閉鎖不全が進行し、心臓がこれ以上拡張できなくなると、心臓内の圧力が上昇し、心不全の状態に陥ります。
大動脈弁狭窄症
大動脈弁狭窄症は、動脈硬化や加齢などが原因で、大動脈弁が硬くなって開きにくくなる病気です。
大動脈弁が狭くなると、心臓はより強い力で血液を送り出さなければなりません。
その結果、心臓に負担がかかり、筋肉が肥大していきます。これは、高血圧性心疾患と同様のメカニズムです。
心臓の筋肉は、肥大すると硬くなり、柔軟性を失います。
その結果、心臓のポンプ機能が低下し、心不全を引き起こすリスクが高まります。
僧帽弁閉鎖不全
僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の僧帽弁がしっかり閉じなくなり、血液が逆流してしまう病気です。
心臓の僧帽弁は、乳頭筋という筋肉と、腱索と呼ばれる糸状の組織によって支えられています。
この腱索が切れてしまうと、僧帽弁が正常な位置に保てなくなり、血液が逆流してしまうことがあります。
血液が逆流すると、左心房に血液が過剰に戻り、左心房が拡大します。
さらに、心臓内の圧力が上昇し、息切れや動悸などの心不全の症状が現れやすくなります。
心不全とストレスの関係
日々のストレスは、心臓や血管に大きな負担をかけ、心臓病の発症や悪化のリスクを高める可能性があります。
ストレスを感じると、交感神経が活発になり、心拍数や血圧が上昇します。
その結果、心臓はより多くの血液を送り出そうとしますが、同時に血管は収縮するため、心臓と血管の両方に大きな負担がかかります。
この状態が続くと、心臓のポンプ機能が低下し、心不全のリスクが高まります。
また、ストレスによって飲酒量が増えたり、喫煙習慣が悪化したり、不眠に悩まされるなど、心臓病のリスクを高める要因が増える可能性もあります。
心臓病は、重症化すると命に関わることもあります。
気になる症状がある場合は、自己判断せずに、まずは専門医にご相談ください。
心不全に前兆はある?
症状チェック
心不全は、初期段階では自覚症状が現れにくい病気です。そのため、症状が現れた時には、すでに病状がかなり進行しているケースも少なくありません。
以下の症状がある場合には、心不全の可能性があります。些細な症状でもお早めにご相談ください。
- 軽い運動をした際の息切れ
- 易疲労感、動悸
- めまい
- 顔色が悪い
- 尿量の減少
- 急激な体重増加
- むくみ
- 食欲不振
- ピンク色の痰が出る
- 夜間、呼吸をすると苦しい
- お腹の張り
心不全の治療方法
心不全の治療方法は、急性心不全か慢性心不全かによって異なります。
急性心不全の場合、治療の目標は、患者様の症状を和らげ、臓器のうっ血状態を改善することで、救命し、状態を安定させることです。
一方、慢性心不全の場合、治療の目標は、血液循環を改善し、予後を良くすることで、患者様の生活の質(QOL)を向上させることです。
いずれの場合も、心不全の原因となっている病気に対する治療が重要です。
急性心不全の治療
急性心不全の治療では、基本的には入院して治療が行われます。
まず、心臓への負担を軽減するために安静にし、必要に応じて酸素投与が行われます。
並行して、利尿剤、血管拡張薬、狭心症の薬などを使用して、正常な血液循環の回復を目指します。
これらの薬物治療で効果が不十分な場合は、補助循環装置を使用するなど、より高度な医療介入が必要となる場合もあります。
慢性心不全の治療
慢性心不全の治療では、病状を安定させ、長期的に管理していくことを目指します。
治療の柱となるのは、薬物療法、生活習慣の改善などの自己管理、適度な運動の3つです。改善が乏しく、慢性呼吸不全になられた方に対して、在宅酸素も取り扱いをしております。
特に、日々の健康状態を記録することは、慢性心不全の管理において非常に重要です。
毎日、血圧、脈拍、体重、息切れや疲労感などの自覚症状の有無などを記録することで、わずかな変化に気づくことができます。
これは、心不全が悪化する前に、その兆候を捉えるために非常に有効な手段です。
患者様自身が自身の体の変化に気を配り、医師がその変化を早期に察知することで、心不全の悪化を防ぎ、予後を改善することが期待できます。
薬物療法
慢性心不全の治療では、複数の薬を組み合わせて使用するのが一般的です。
主な薬として、利尿薬(体内の余分な水分を排出することで、息切れやむくみを改善)、血管拡張薬(血管を広げて心臓の負担を軽減)、ベータ遮断薬(心臓への負担を高める神経やホルモンの作用を抑え、心臓を休ませる)を使用します。
その他、抗不整脈薬(重症の心室性不整脈や、それに伴う心停止の経験がある場合に、不整脈の発生を抑える)を使用する場合もございます。
手術療法
薬物療法だけでは十分な効果が得られない場合、非薬物療法を検討します。
非薬物療法には、カテーテルなどを使用する比較的身体への負担が少ない方法と、外科手術が必要な方法があります。
カテーテルを用いる治療法としては、急性心不全の治療でも用いられるIABP(大動脈内バルーンパンピング)やPCPS(経皮的心肺補助法)などの補助循環法のほか、CRT(心臓再同期療法)などがあります。
在宅酸素について
※準備中です心不全になったら
やってはいけないこと
(注意事項)
心不全は、症状が改善したり悪化したりを繰り返しながら進行していく病気です。
そのため、心不全と上手に付き合っていくためには、以下のことに注意してください。
塩分・水分の過剰摂取
心不全の患者様にとって、食生活で最も気を付けなければならないのは、塩分の摂り過ぎです。
塩分を摂り過ぎると、体内に水分が溜まりやすくなり、心臓に負担がかかり、心不全が悪化する原因となります。
1日の塩分摂取量は6g未満を目安に、減塩を心がけましょう。
また、水分の摂り過ぎにも注意が必要です。
特に、暑い時期にはこまめな水分補給が重要ですが、一度に大量の水分を摂取すると、体液量が増加し、心不全の症状が悪化する可能性があります。
その他、過度な飲酒や食べ過ぎも、心臓に負担をかけるため注意が必要です。
肥満の人は、減量も検討しましょう。
内服を忘れる・中断する
心不全の治療では、薬物療法が非常に重要ですが、症状が落ち着いてくると、自己判断で服薬を中止したり、忘れてしまったりするケースが見られます。
しかし、心不全が悪化する原因として、服薬の中断は最も多い原因の一つです。
心不全の治療薬は種類が多く、服用が負担に感じられることもあるかもしれませんが、医師の指示に従って、きちんと服用を続けることが大切です。
もし、薬が合わないと感じたり、副作用が出たりした場合は、自己判断で服用を中止せずに、必ず医師に相談してください。
生活習慣・自己管理
長時間の入浴は、血管が拡張して心臓が楽になる効果がありますが、長すぎたり熱すぎたりすると心臓に負担がかかるため注意が必要です。
脱衣所と浴室の温度差によって、心筋梗塞を起こすこともありますので、冬場は脱衣所を十分暖めておくなど工夫をしましょう。
また内服薬の継続、塩分制限に加えて、日々の状態を把握しておく必要があります。
血圧や体重を毎日記録し、体重増加などの心不全の症状の把握、血圧が高すぎたり低すぎたりしないか、日々チェックするように心がけましょう。