狭心症とは?
狭心症は、心臓の冠動脈が狭窄することで、心臓の筋肉への酸素や栄養分の供給が不足するために起こる病気です。
冠動脈は、心筋に酸素と栄養を供給する血管です。
大動脈から分岐し、心臓の筋肉を包み込むように走行しています。
主に胸が締め付けられるように、重く苦しく感じることが症状の特徴です。
狭心症と心筋梗塞の違いに
ついて
狭心症と似た病気に心筋梗塞がありますが、狭心症は冠動脈が狭窄しているものの、ある程度の血流は保たれている状態です。
一方、心筋梗塞は冠動脈が完全に閉塞し、血流が途絶えた状態です。
血管が閉塞すると、その先の心筋に酸素と栄養が供給されなくなり、心筋が壊死してしまいます。
壊死した心筋は再生しないため、心筋梗塞は狭心症よりも重篤で危険な状態です。
胸の痛みや圧迫感は、狭心症では通常数分から15分程度で治まりますが、心筋梗塞では30分以上続き、安静にしても改善しません。
狭心症の4つの種類
狭心症は、粥腫の状態によって、労作時狭心症、安静時狭心症、安定狭心症、不安定狭心症の4つのタイプに分類されます。
労作時狭心症
狭心症の中で最も多くみられるのが労作時狭心症です。
労作時狭心症は、早歩きや階段の上り下りなど、運動時に起こります。
運動すると、体は多くの酸素を必要とするため、心拍数を上げて全身に血液を送り出します。
このとき、心筋にも多くの血液が必要となりますが、冠動脈に粥腫があると、心筋への酸素供給が不足し、胸の痛みなどの発作が現れます。
安静時狭心症
安静時狭心症は、夜間就寝時や安静時に起こる狭心症です。
冠動脈の痙攣によって一時的に血管が狭窄し、心筋への血流が低下することで、動悸や胸の痛みなどの症状が現れます。
原因は明らかになっていませんが、動脈硬化の発生と同時期に起こることが多いとされています。
安定狭心症
血管の内側にコレステロールが沈着し塊となっている状態を粥腫といい、厚い膜で覆われている粥腫が原因で起こるのが安定狭心症です。
安定狭心症では、粥腫が破れて血栓ができ、血管が閉塞することがないため、心筋梗塞に移行する可能性は低いとされています。
不安定狭心症
不安定狭心症は、粥腫を覆っている膜が薄く、破れやすい状態であるため注意が必要です。
不安定狭心症では、粥腫が破れて血小板が集まり、血栓ができてしまいます。
発作の頻度が増加したり、軽い運動でも発作が起こるなど、症状が悪化している場合は、不安定狭心症が疑われます。
不安定狭心症は、心筋梗塞に移行するリスクが高い状態です。
狭心症の原因
狭心症のほとんどは、動脈硬化が原因で起こります。
動脈硬化とは、動脈の内側にコレステロールなどが蓄積し、血管が狭窄したり、硬化したりして弾力性を失った状態です。
動脈硬化は血管の老化現象であるため、加齢とともに誰にでも起こる可能性があります。
しかし、加齢以外にも、動脈硬化を促進する疾患がいくつかあり、複数の疾患を合併していると動脈硬化が急速に進行することがあります。
喫煙
タバコに含まれるニコチンは、心拍数や血圧を上昇させ、血管を収縮させる作用があります。
また、血液の粘度を上昇させ、凝固しやすくするため、動脈硬化のリスクを高めます。
このほか、肥満、高尿酸血症、遺伝的要因、外傷なども、動脈硬化を促進する要因として知られています。
病院に行くタイミングは?
狭心症の症状チェック
狭心症は、初期段階ではほとんど自覚症状がありません。
冠動脈の内腔が75%程度狭窄すると症状が現れ始めると言われていますが、症状は長くても15分以内で消失することがほとんどです。
狭心症の症状には、以下のようなものがあります。
- 胸の痛み(胸全体が締め付けられるような痛み、圧迫感など)
- 動悸、息切れ
- 冷や汗
- 左肩、左腕、左手、顎、歯などに痛みが広がる(放散痛)
- 背中の痛み
- 歯が浮くような感覚
- 左肩から腕にかけての痺れや痛み
- 失神発作
- 吐き気
- めまい
- 顎から首にかけての痺れや痛み
受診の目安となる症状
- 突然の胸痛、胸部圧迫感
- 息切れ、呼吸困難
- 動悸
- めまい、意識消失
このような症状がある場合には、医療機関を受診しましょう。
日頃から、定期的な健康診断を受け、生活習慣を改善することで、狭心症のリスクを減らすことができます。
狭心症かどうか確かめるには?検査と診断
当院では、まず問診で発作時の状況を詳しく伺います。
発作が起こる時間帯、持続時間、頻度、症状の進行、ニトログリセリンの効果、食事や呼吸との関連性などを確認することで、狭心症かどうかをある程度推測することができます。
その後、必要な検査を行い、診断確定後、治療方針を決定します。
心電図検査
安静時心電図検査では、狭心症に特徴的な心電図変化(ST変化)を捉えます。
しかし、安静時のみの検査では、全ての狭心症を見つけることは困難です。
そのため、運動負荷試験や24時間心電図(ホルター心電図)などを併用し、診断の精度を高めます。
安静時の心電図検査で異常が認められた場合、血管の狭窄が高度である可能性が高く、精密検査を早急に行う必要があります。
ホルター心電図検査
24時間心電図検査(ホルター心電図)は、主に冠攣縮性狭心症(異型狭心症)が疑われる場合に実施します。明け方に多い発作を捉えることができ、発作時の心電図変化を確認することで、診断することができます。
また、不整脈の有無も確認できるため、症状が不整脈によるものかどうかを判断することができます。
心臓エコー検査
心臓エコー検査では、心臓の動きや血流の状態を調べることができます。
狭心症によって慢性的に心筋への血流が不足すると、心臓の動きが悪くなったり、弁膜症を合併したりすることがあります。
心臓CT検査
心臓CT検査では、冠動脈の走行や狭窄の程度を評価することができます。
心臓CT検査は、カテーテルを使用せず、造影剤を静脈注射することで冠動脈を画像化するため、心臓カテーテル検査と比較して、患者様の身体への負担が少ない検査です。
採血
心筋への血流不足によって心筋が壊死すると、心筋に含まれるタンパク質が血液中に流れ出てきます。
主なものとして、ミオグロビン、CK-MB、トロポニンIなどがあります。
これらの数値が著しく上昇している場合は、狭心症よりも重症な心筋梗塞の可能性が高いと考えられます。
運動負荷試験
運動負荷試験は、運動によって心臓に負荷をかけることで、冠動脈の狭窄の有無を確認する検査です。
運動によって心臓が必要とする酸素量が供給量を上回ると、心電図変化(ST変化)が現れます。
運動中に胸の不快感などを自覚した場合、狭心症の可能性が高くなります。
ただし、運動負荷試験は狭心症発作を誘発する可能性もあるため、循環器専門医の監視下で慎重に実施する必要があります。
狭心症の治療方法
狭心症の治療には薬物療法、バイパス手術、カテーテル治療があります。
薬物療法
軽度の狭心症や高齢の患者様には、薬物療法によって発作の予防と症状の緩和を行います。
治療には、冠動脈や末梢血管を拡張させる薬剤を使用します。
発作の予防には、硝酸薬、β遮断薬、カルシム拮抗薬、ニコランジルなどを使用します。
発作の抑制には、主にニトログリセリン(硝酸薬)を使用します。
発作時に服用すると、血管拡張作用により冠動脈の血流が増加し、心筋への酸素供給が改善されることで、発作が鎮静化します。
ただし、血管拡張作用が強いため、頭痛、血圧低下、めまい、ふらつきなどの副作用が現れることがあります。
舌下錠
舌下錠は、舌の下に錠剤を入れて唾液で溶かし、口腔粘膜から吸収させることで速やかに効果を発揮します。錠剤を飲み込んでしまうと、効果発現までに時間がかかります。
スプレー薬
スプレー薬は、硝酸剤を口の中にスプレーして使います。
舌下錠タイプ同様もしくはそれ以上の即効性があります。
貼り付け錠
貼り付け錠は、錠剤を歯ぐきと頬の内側に入れて、唾液で溶かして服用します。
効果はゆっくりと現れ12時間持続します。
しかし、飲みこんだり、噛んだりすると持続時間が短くなります。
貼り付け薬
貼付剤は、湿布薬のように皮膚に貼り付けて使用します。
皮膚から薬剤が吸収されるため、効果が12~24時間と長時間持続します。
バイパス手術
薬物療法の効果が不十分で、カテーテル治療が困難な場合に検討されるのが、冠動脈バイパス手術です。
この手術では、足の太い静脈や胸の動脈など、別の部位から採取した血管を、心臓の表面でつなぎ合わせることで、狭窄した冠動脈を迂回し、血液の流れを改善します。
使用される血管は、患者様の状態や血管の状態などを考慮して選択されます。
カテーテル・インターベンション(PCI)
冠動脈が狭窄している場合、カテーテルを用いて血管の内側から広げる治療が行われます。
これを「経皮的冠動脈インターベンション(PCI)」といい、風船療法、PTCA、バルーン治療などと呼ばれることもあります。
PCIでは、まず、細い管状のカテーテルを血管に挿入し、冠動脈の狭窄部位まで進めます。
そして、カテーテルの先端についたバルーン(風船)を膨らませて、狭くなった血管を拡張します。
さらに、血管が再び狭窄するのを防ぐため、ステントと呼ばれる金属製の網目状の筒を留置する場合もあります。
ステントには、再狭窄を抑制する薬剤が塗布されたもの(薬剤溶出性ステント:DES)もあります。
PCIは、開胸手術を必要としない、身体への負担が少ない治療法です。